選択肢が多いと、選ぶだけで疲れてしまい適切な判断ができない。
…なんて話を聞いたことがありませんか?
例えばスーパーで買物をする時、お店に入ったばかりの時は必要なものか、不要なものかじっくり考えて判断できたのに、
品物をレジに持っていくタイミングになると、「SALE」だとか「半額!」といった文句に釣られてついつい買いすぎてしまう…という経験があると思います。
これも一種の「決定疲れ」が引き起こす現象なんです。
今回は、そんな「決定疲れ」について知ることで、店員さんのオススメにしたがって不要なものを買ってしまったり、
昼食前や夕方に判断力が鈍ってしまうメカニズムと、それに対処する方法を学びます。
目次
午前か午後かで判決は大きく変化する
本書の中で、イスラエルの刑務所で仮釈放を申請した4人の囚人についての実験が紹介されています。
仮釈放を許可することは、受刑者とその家族にとって嬉しいもので、税金が節約できる反面、判事にとってはリスクのあるものです。
仮釈放中に受刑者が別の犯罪を起こしたら、判事の評判に傷がつくためです。
したがって、仮釈放を許可するかどうかを判定するのは、判事にとって非常に精神的な負担が大きい作業になります。
仮釈放を許可する割合が7倍に
午前中に審議を受けた受刑者が仮釈放を認められる確率は70パーセント。ところが午後の遅い時間に審議された受刑者が仮釈放を認められる確率は10パーセント未満だった。
研究者が、判事の仮釈放を許可するパターンを調べたところ、このような傾向が見られました。
午前中か午後かで、仮釈放が許可される確率が7倍に増えてしまうんです。
これも判事が決定疲れを起こしている一つの例です。
というのも、判事にとっては「仮釈放を許可しない」という選択肢が、一番楽で手っ取り早く、リスクの少ないものだからです。
意志力や自制心が枯渇してしまっている場合、人は楽な選択肢や勧められるがままの品物を選んでしまうというという「決定疲れ」が、
刑務所の判事にも当てはまるというケースでした。
ただし、昼食前や午後の遅い時間に比べて、昼食後や休憩をとって軽食を食べた直後の判定では、仮釈放が認められる確率が再び上昇するといいます。
脳に必要なエネルギー源、ブドウ糖やグルコースといった糖分が補給されるからなんです。
生活の中でも自分が決定疲れを起こしているな、と感じられた時には、アメやチョコなどの甘いものを食べると良いですね。
衝動買いの科学的メカニズム
私たちは買物をするとき、常に価格と品質のバランスを考えています。
1本100ドルのワインは20ドルのワインより質はいいと思われるが、5倍もいいだろうか。
と言った具合ですね。
認知的倹約
ところが、意志力が低下している状態で買い物をしようとすると、「認知的倹約」という状態に陥りやすくなります。
認知的倹約とは、例えば「一番安いものをください」とか「一番品質がいいものをください」というように、
品質や値段などの1面だけしか考慮できなくなっている状態を指します。
フードコートでたくさんのお店からメニューを選ぶ時、量販店で家具・家電を選ぶ時、スーパーで食材を買う時、
「とりあえず一番安いものを…」と考えていませんか?
あ、今認知的倹約してたわ~やっべ~って気づけると、有意義な買い物ができるかもしれません。
生地の種類、裏地の種類、ボタンの形…
コロンビア大学の心理学者、ジョナサン・レヴァヴによって実証されたのは、決定疲れを起こすとマーケティング担当者の思うツボにハマりやすくなるということです。
婚約者の勧めでオーダーメイドのスーツをつくってもらおうと店に行き、生地、裏地の種類、ボタンの形などを選び始めた。
「3冊目の生地見本帳を見終わることには死にたくなっていました。もう違いがわからなくなって、仕立屋に『お勧めはどれ?』と聞くだけになりました。とても耐えられなかったんです」。
私はオーダーメイドのスーツをつくってもらおうとした経験はありませんが、似たような経験として
パソコンを購入するときのCPU・メモリ・HDDの容量を全て自分で決めて購入したことがあります。
その時も私は、それぞれのパーツを細かに決めるのが辛くなってしまって、結局は初期状態の設定のまま、パソコンを購入しました。
まさに決定疲れを起こしてしまった典型ですね。選ぶのがめんどくさいからといって、よく内容を確認せずに初期状態のパソコンを買うことは控えないといけません。
どんな高額なオプションがくっついているかわかりませんからね。(炎上中のPCデポの件もその意味では、決定疲れを狙ったマーケティング手法かもしれません。)
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決定疲れを起こさないためのコツ
続いては、そうした決定疲れを回避して、理性的な判断ができるようにするために、本書で紹介されているコツを2つご紹介します。
楽しくて魅力的な選択肢を少しだけ
まず一つ目は、楽しくて魅力的な選択を行うことです。
著者による実験の一つに、ブライダルレジストリ(結婚祝い品の登録)を被験者に選ばせるというものがあります。
この実験では、自分たちの結婚祝いの贈り物を選んだあと、その経験が「楽しかった」というカップルと、「心底いやがっていた」というカップルについて、
その後の意志力の消耗具合を調べました。
予想していた人もいるかもしれないが、作業を楽しんだ人は、それほど意志力を消耗しなかった。
という結果が見られたのです。
ただし、そうした傾向が見られるのも最初のいくつかの選択においてのみで、
作業時間が長くなるに連れて、「心底いやがっていた」カップルたちと同じくらい意志力を消耗していたのです。
楽しくて魅力的な選択を少しだけ行うことが、より良い意思決定につながります。
他人のために選ぶつもりになる
もう一つのコツは、他人のために選ぶつもりになるということ。
家に置く家具を選んでもらい、その後に意志力についてテストしたところ、自分の家より知り合いの家の家具を選ぶほうが、遥かに消耗が少ないという結果が出た。
これは、最終的に家具を使うのは自分たちではないし、たとえ部屋のインテリアとして雰囲気が合わなくても責任を負わずに済むからだと思われます。
自分が使うためにモノを買うよりも、誰かにプレゼントするつもりでモノを買ったほうが、
買い物の過程を楽しむことができ、意志力の消耗を抑えられるかもしれませんね。
美女がいるモーターショーに注意?
私は車やバイク雑誌、モーターショーなどには参加したことがないし買ったこともないのですが、だいたい車やバイクの隣にコンパニオンガールが立っていますよね。
ただ美女の写真を見せるだけで、男性は1ヶ月で50%もお金が増えるチャンスをふいにしてしまうと聞いたら、信じられますか?
今日もらえる10000円と来月もらえる15000円
マクマスター大学のマーゴ・ウィルソンとマーティン・デイリーが行った実験によると、
若い男女の被験者に対し、「翌日現金化できる小切手」か、「額は大きいがしばらく待たなければ現金化できない小切手」のどちらかを選ばせました。
その後、男女それぞれに美女の写真、それほど魅力的ではない女性の写真、
新車の写真、オンボロ車の写真の4通りを見せてからもう一度小切手を選ばせたところ、
ある1つの組み合わせでだけ、選択の変化が起きたのです。
それが、美女の写真を見せられた若い男性のグループ。
彼らは、1回めの選択では額の大きい小切手を選んだのに対し、美女の写真を見せられたあとの2回めの選択では、翌日に現金化できる小切手を選んだのです。
男性にお金を使わせるには
つまり、男性にお金を使わせるためには「美女がバイクにまたがっている写真」を見せればいいということですね。
そうすれば、私を含めて若くて健気な男性たちは、大昔から身についている子孫繁栄のための遺伝子によって、
大金を出してそのバイクを買いたくなってしまいます。
綺麗なバラには棘がある…じゃないですが、魅力的な女性に出会ったら、
自分のDNAから発せられる指示を無視するように努力しないといけませんね。
おわりに
ということで、前回に引き続き意志力に関する本のまとめでした。
この本は、意志力に関する第一人者であるロイ・バウマイスターによって書かれたベストセラー本で、アメリカのAmazonでは年間ベストブックに選ばれるほど。
ですが、アメリカの文化的背景が盛り込まれていたり、少し話が脱線しやすいようで、読むのが少し大変だな、という印象でした。
とはいえ、意志力は鍛えられることを発見した科学者でもある著者の書いた本なので、自分の意志の弱さに悩んでいる人にとっては示唆に富む内容だと思います。
まずは『スタンフォードの自分を変える教室』や、『やってのける』で意志力について軽く理解を深めてから読み進めるのがオススメです。
出典
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