人食いザメが登場する映画『ジョーズ』の上映後は、海水浴客が少なくなった。
そんな不合理な現象を、専門用語で「利用可能性ヒューリスティック」といいます。
今回はこれに関連した、医師の不合理な行動についてのお話。
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1.医師の喫煙率が低い理由とは?
海外の調査では、医師の喫煙率は一般の人より低いといいます。
これまで医療に関する知識を身につけ、タバコによる肺がんの可能性が高くなるデータも理解しているのだから、それは当然と思うかもしれません。
しかし実は、大部分の医師は一般の人と比べ、喫煙率にほとんど差がないということもわかっています。
高い教育水準を備え、タバコの健康リスクを理解していても、喫煙率はそれほど下がらないというのです。
2.実は一部の医師が低いだけ
ところが、ある一部の医師だけは喫煙率が大幅に低いというデータがあります。
ある大規模な調査によれば、喫煙率が大幅に低いのは、肺癌患者と接する機会が多い放射線科や呼吸器科の医師にかぎられ、他の診療科目や一般医の喫煙率はさほど低くない。
というわけです。
医者にとっても、統計的な数字は説得力をもたず、喫煙のために死ぬ人を間近に見ることのほうがインパクトが大きいということだ。
いくら世間で「タバコは健康に悪い!」と叫ばれていて、健康リスクについての明確なデータが出ていたとしても、喫煙率が下がることはない。
喫煙率が下がるのは、喫煙のために死ぬ患者を間近で目にした場合のみである。
私たちがいかに合理的な判断を下せないかを示す好例のように思います。
3.「利用可能性ヒューリスティック」に気をつけて
客観的な数字やデータよりも、自分が思い出しやすい経験にもとづいて判断を下してしまうことを、「手近な情報による誤謬」と呼びます。
専門用語では、「利用可能性ヒューリスティック」とされることもあります。
冒頭に書いた、映画『ジョーズ』上映後の海水浴客の減少も、この「利用可能性ヒューリスティック」で説明可能です。
あるいは、ごく少数の飛行機事故のニュースが報道されるせいで、飛行機事故が頻繁に起こっていると錯覚してしまう現象も同じ。
実はクルマで空港までに向かう道路で交通事故に遭う可能性の方がずっと高いにもかかわらず、「飛行機に乗るのは危険!」と思い込んでしまうんですな。
日常生活にも潜む利用可能性ヒューリスティック
これらは少し極端な例ですが、私たちの日常生活でもこの「利用可能性ヒューリスティック」がはたらく場面は多くあります。
たとえば、300円の商品よりも299円の商品の方が安く感じてしまうのもそのせい。
いちばん最初に目に入ってくる数字が「3」か「2」かで、商品の価格への印象が大きく違ってきます。
実際はほぼ同じ値段なのに、299円の商品を手に取ってしまうという、人間の不合理性を利用したマーケティング手法なんですな。
まとめ
- 医師喫煙率が低いのは、高い教育水準やタバコの悪影響を考えた結果ではない
- 肺がん患者に接する機会の多い放射線科や呼吸器科の医師のみ、喫煙率が低い
- 手近な情報をもとに不合理な判断を下す「利用可能性ヒューリスティック」に気をつけよう
以上、『知識も教養もある医師すら「利用可能性ヒューリスティック」で不合理な判断をする』という記事でした。
ここで紹介した医師の話は、あくまでも海外の調査での話。
日本人の医師の場合は、また違ったデータが出てくるかもしれません。
それでも、呼吸器系などタバコによる悪影響を直接目にする医師とそうでない医師とでは、喫煙率に大きな開きがあるはず。
知識と教養を備えた医師ですら不合理な判断をしてしまうんで、私たちはより一層気をつけて判断を下さないといけませんね。
人間の不合理性についてもっと詳しく知りたい方は、『不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100』をどうぞ。