「時間がない」とか「お金がない」が口癖の人って多いですよね。そうした口癖が原因で、さらに時間がなく、お金がない状態になりやすくなってしまうことを知っていますか?
欠乏は欠乏を呼ぶ…。今回ご紹介するのは、「欠乏」をテーマにした行動経済学の著書『いつも「時間がない」あなたに』です。
目次
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欠乏は高い集中力を生み出す
「お金がない」「時間がない」といった心配事は、限定的な強みを生み出します。それが高い集中力。
なんとなく集中できない仕事でも、締め切りが目前になるとグンと集中力が高まります。給料日後は散財して遊んでしまうけど、給料日前になるとかなり節約して生活することができます。
子どもの頃の夏休み終わりにやる宿題や、学校の定期試験前に高い集中力が発揮できた経験は誰にでもありますよね。こうした高い集中力が、欠乏のひとつのメリットでもあります。本書では「集中ボーナス」と呼ばれます。
硬貨がより大きく見える貧困者
ある研究では子どもたちに、ふつうのアメリカの硬貨――一セントから五〇セントまで――の大きさを、記憶を頼りに推測…(中略)…すると、貧しい子どもにとってのほうが硬貨は大きく「見えて」いて、推測された硬貨の大きさは実際よりかなり大きかった。(18ページより)
という研究結果があります。
この硬貨が大きく「見える」現象は、高い集中力の産物です。貧しい子どもはそうでない子どもよりも、お金に対して高い集中力を発揮します。なぜなら、彼らにとってはたとえ1円であっても50円であっても、貴重な財産に違いないからです。
忙しい人ほど時間を有効に使える
「仕事は忙しい人に頼め」なんてよく言われますよね。これも時間が限られているからこそ高い集中力を発揮でき、たくさんの仕事をこなすことができる。だからこのように言われるようになったのです。
仕事や学校帰り、夜の限られている時間で勉強することは楽にできるのに、「時間がたっぷりある」と考えてしまう休日はまったく勉強に手が付かない…なんて現象も、時間の欠乏という集中力を生み出す源がないからなのです。
貧しい人ほど1ドルを大切に使える
たとえば、2,000円で買ったサッカー観戦のチケットが手元にあるとします。サッカーの試合の目前、あなたはこのチケットが7,500円で取引(転売)されていることを知りました。
この時、あなたは今持っているチケットの費用を、購入した価格の「2,000円」と考えますか?それとも、売れば手に入るであろう「7,500円」と考えるでしょうか?
これには正しい答えというのはありませんが、経済学者が考えるのは「7,500円」です。経済学用語で「機会費用」という言葉でも説明できますね。
お金に余裕のある裕福な人はどうでしょうか?研究によると、裕福な人達は「2,000円」と答える可能性が高かったのです。
そして最後に貧しい人。お察しの通り貧しい人たちは、「7,500円」と考える傾向があるようです、これは経済学者の考えと一致していますね。
したがって、裕福な人達よりも貧しい人たちのほうが、お金に関して合理的な判断ができ、お金のエキスパートであるといえます。
これも、日々のお金がないという考え(欠乏)がもたらす効果なんです。
欠乏は「トンネリング」を起こす
ここまで欠乏のメリットを上げてきましたが、もちろん欠乏がもたらすデメリットも存在します。それは「トンネリング」を起こしてしまうということ。
トンネリングとは、このように説明されています。
トンネルの内側のものは鮮明に見えるが、トンネルに入らない周辺のものは何も見えなくなる視界狭窄のことである。(44ページ)
目の前のこと以外をシャットアウトしてしまう
つまり、ひとつのことに集中しすぎるあまり他のことが見えなくなってしまう現象のことですね。仕事に熱心なあまり家庭を省みないサラリーマンも、トンネリングを起こしているといえます。
他にもたとえば、大きな買い物だからといって、洗濯機や冷蔵庫などの大型家電を「安さ」のみで選んでしまうというトンネリングがあります。本来ならばその大型家電の「耐用年数」や消耗品や電気代などの「ランニングコスト」を考慮して、一番経済的な製品を選ぶべきです。
ところが、トンネリングを起こしている貧しい人たちは、高い電気代や壊れやすさをトンネルの外に置き、値段のみを注視してしまうのです。
内因性混乱
「内因性混乱」という概念は、認知科学と神経科学ではよく出てくる。内面の思考が――頭のなかで数を数えるようなくだらないことでも――一般的な認知機能に与える多大な影響を実証した研究はたくさんある。(63ページ)
内因性混乱とは引用部分のように、頭のなかでぐるぐると回っている思考が混乱をもたらし、しっかりとした判断ができなくなってしまう現象のことです。
「お金がない」とか「今月の残りの食費はどうしよう」なんて考えながらだと、目の前の仕事に集中できなくなってしまいます。
あるいは、精神的なエネルギーを消耗したせいで自制心が弱まり、「いままで節約がんばってきたし、ちょっとくらいいいよね」と半額セールの洋服を買ってしまうなんてことも。
お金の心配をするだけで、IQが低下する
同じ人でも、欠乏に気を取られているときのほうがそうでないときよりIQが低くなるのだ。これは私たちの主張の鍵である。(75ページ※太字は引用者による)
本書でいちばん大切な部分がこの2行にあります。
本書で取り上げられた例でいえば、収穫後の農家の人(裕福)のIQをテストした場合と、収穫前の農家の人(欠乏)にIQをテストした場合とで比べると、9ポイントから10ポイントの差があるとわかったのです。
普段はIQが100ポイントある同じ人が、欠乏に陥った場合にはIQが90ポイントまで落ち込むというわけです。IQのスコアは100が平均ですから、異常とはいえなくてもかなり知能が劣っている状態になってしまいます。
ちなみに、一晩中時間寝てない人と十分に睡眠を取った人とを比べたIQテストよりも、お金について心配事があるかないかで比べたIQテストのほうが、両者の差は顕著でした。
つまり、徹夜するよりもお金の心配事をするほうが、認知能力を大きく奪われてしまうということなんです。怖いですね。
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欠乏の悪循環から抜け出すために
それでは、こうした欠乏が欠乏を呼ぶ悪循環はどのように抜け出せばいいのでしょうか。本書でも欠乏への対処法について紹介されています。
豊かな時につくる「スラック」
そのひとつはスラックを設けるという方法。スラックとは、給料日直後に残した貯金。スーツケースにつくっておく隙間。すなわち、豊かな環境であえて浪費しない余剰物のことです。
このスラックを残しておくことによって、お金が必要なってしまった時のクッションになってくれます。無理な節約や、消費者金融でお金を借りる必要がなくなります。
スーツケースにスラックがあれば、旅行先で購入したお土産品もストレスなく詰め込むことができるでしょう。時間がある時に仕事を終わらせておけば、締め切り前に焦ってトンネリングを起こすこともありません。
投資する
貧困者はお金をいかに節約するかという点にトンネリングを起こしているので、「投資」とにお金を惜しみます。本を読めば将来収入が増えるはずだとわかっているのに、1,500円という値段に躊躇して貴重な自己投資をためらってしまいます。
お金がないからといって、いつまでも古いパソコン、使いづらいオフィス用品を使い続けているので、仕事の生産性がいつまでたっても上がりません。
そうではなく、積極的に投資をするべきです。仕事に使う設備投資でも、将来の自分のための自己投資でもかまいません。お金がなく貧しいからこそ、将来の大きな見返りのために投資をしなくてはならないんです。
おわりに
欠乏の行動経済学、いかがでしたか?たしかに悩みを抱えてると仕事や勉強に集中できないなあ…なんて感想を持っていただけたかと思います。
本書はきっと、時間やお金について悩む人の助けになるはずです。ぜひ読んでみてくださいね。